『大学でのファッションロス削減の取組』 岡山 朋子 大正大学地域創生学部地域創生学科 教授 かつて日本では古着や故繊維のリユース・リサイクルが盛んでしたが、1985年以降の産業構造の変化により縮小しました。現在、国内で供給される衣類約80万トン(2022年)のうち47万トンが廃棄され、リユース・リサイクル率はいずれも2割に満たず、衣類自給率も2024年時点でわずか1.4%にとどまっています。それにも関わらず、現在、製造や流通の過程で廃棄される余剰衣類や、まだ着用できるにもかかわらず捨てられる衣類、すなわち「ファッションロス」が増え、社会問題になっています。さらに、タンスに眠ったままの退蔵衣類、いわゆるタンスの肥やしも、将来的なファッションロスの予備軍といえます。これらは消費者一人ひとりの行動に大きく関係しており、対策が急務です。 このような状況を受けて、大正大学地域創生学科では、2024年の夏から秋にかけて「ファッションロス3Rプロジェクト」という社会実験を実施しました。本プロジェクトは、ファッションロス削減とエシカルファッションの普及を目的としたもので、衣類の回収・衣類の交換会・リメイクワークショップ・エシカルファッションショーの4つの活動を展開しました。運営には一般社団法人エシカルモデル協会が協力し、学生が中心となって企画・広報・運営を担当しました。 回収対象は学生・教職員・地域住民の不要衣類で、寄付として集めた後、「ふくのわプロジェクト」を通じてパラアスリート支援に役立てました。交換会では持ち寄りと持ち帰りを自由に行える仕組みとし、リメイクワークショップでは古着やハギレを利用して小物を制作するなど、参加者がリユースやリメイクの楽しさを実感できる内容としました。 回収では60人から合計702枚(192.4kg)の衣類が集まり、交換会で引き取られた後、最終的に約500枚が寄付されました。特に区報掲載後には一般の持ち込みが増え、地域への波及効果が確認されました。広報面ではポスターとSNSの併用も効果的で、今後の常設回収を望む声も多く寄せられました。 また、足立区の一般消費者233人を対象としたアンケートでは、不要衣類を「可燃ごみ」として処分する人が最も多く(42.1%)、特に男性にその傾向が強いことがわかりました。一方、女性は譲渡やリユース行動に積極的でした。「回収場所が近ければ利用したい」と答えた人は53.7%であり、アクセスの良さが重要な要因であることが明らかになりました。和服は高齢女性に多く、長期退蔵傾向が強いことがわかりました。リメイクへの抵抗感は一部に見られましたが、社会的意義があれば回収・再利用の可能性があることも確認されました。 これらの結果から、消費者は「再利用が望ましい」と考える一方で、実際には40%以上が不要衣類を可燃ごみとして捨てていることから、意識と行動が伴っていないことがわかりました。しかし、大正大学の社会実験では、家庭に眠る衣類を寄付という形で回収することで、廃棄行動の抑制と意識の変容を促す効果が見られました。また、アクセスしやすい回収場所の設置が行動を後押しする大きな要素であることも確認されました。フリマアプリなどを利用したリユースは一部の若者に限られており、利用未経験者への普及が課題です。行政による資源回収制度は効果的であるにもかかわらず、住民の認知度が低いため、広報強化が不可欠です。大学や公共施設と連携し、定期的な回収ステーションを設け、リメイクワークショップやリペアカフェを同時開催するなど、官民協働の仕組みづくりが求められます。 なお、退蔵衣類をリユースすることには、別の意義もあります。近年増加している水害では、浸水被災家屋から大量の衣類が災害廃棄物として発生し、焼却処分されています。つまり平時から不要衣類をリユースして退蔵衣類を減らしておくことは、災害廃棄物のリデュースにもつながるのです。 大正大学のファッションロス削減の取り組みは、地域・行政・学生をつなぐ循環型社会づくりの実践例です。同様の取り組みとしては、例えば名古屋市でも、NPO・行政・大学による協働の不要衣類回収が実施されました。合格者のみなさんも、どうかお住まいの地域で、仲間を募って、ファッションロス3Rの取り組みを実践してみてください。 |
岡山 朋子 |
【プロフィール】
岡山 朋子(おかやま ともこ)
大正大学地域創生学部地域創生学科 教授
循環型社会政策論が専門
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学大学院国際開発研究科、名古屋大学大学院環境学研究科修了
おかえりやさいプロジェクトリーダー


