Vol.182「押し寄せる『脱炭素・循環経済』の波」藤波 博

 

「押し寄せる『脱炭素・循環経済』の波」

藤波 博

株式会社トベ商事 社長室企画調査部長


 

 近年、人類に影響を与える様々な環境現象が各地域で起こっている。その中に気候変動など温暖化問題がある。国際社会は、この問題の解決策として、脱炭素、脱焼却、脱プラスチック(削減や素材転換)等を軸に、線型経済から循環経済に向けて舵を切った。欧州では、これら「脱炭素、脱焼却、脱プラスチック」等に対応する欧州グリーンディール政策をさらに加速すべく、新サーキュラーエコノミーアクションプランを欧州委員会で承認した。その中でも、製品バリューチエーンでは、容器包装、建設、車両分野の再生プラスチック材の使用と廃プラスチック削減対策の義務付けが、廃棄物の削減と再資源化では、廃棄物削減目標と発生防止、リサイクル材における懸念材料の追跡と最小化手法等がスケジューリングされている。

 

 また、我が国においては、2050 年までに、CO2排出実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指して政策を展開しているが、サーキュラーエコノミーの実現では、2019年5月、「プラスチック資源循環戦略」を取りまとめ、これを踏まえた「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下「プラスチック資源循環法」という)」を2022年4月1日に施行した。さらに、環境省中央環境審議会脱炭素資源循環システム構築に係る小委員会から「脱炭素型資源循環システム構築に向けた具体的な施策のあり方」が環境大臣に意見具申され、3月15日には「再資源化事業高度化法案」が閣議決定、第312国会に提案され、5月22日に可決成立している。

 

 ここで、「今後の我が国の資源循環の在り方」について考えてみる。まず、環境省統計から使用済み製品のリサイクル率の現状について見てみよう。一般廃棄物は20%、産業廃棄物は53%となっている。そして住民の多くは日本がリサイクル先進国であると思っている。その理由としては、家庭系一般廃棄物は、市区町村と住民の連携・協力により国際的には例のない細分別収集が行われているイメージが強いからであろう。一方、EU等では、資源ビジネスの傾向が強くある。資源の一括回収、AI付きソーティングマシンによる高度リサイクル等が効率的に行われている。これらの比較では、我が国は、リサイクル率は低く、収集コストは高く、CO2の排出量は多い等の結果がでている。機械化システムが効率的なのは当然であろう。時代は令和となった。平成の総括を踏まえて新時代の政策が必要である。少子高齢化が進み、外国人は増大、コストやCO2の削減等効率性の問題等が命題となっている。高度な資源循環システムの構築も急務である。しかし、質・量の両面で革新的なリサイクル技術の開発、再資源化の工程におけるロボット化・自動化への社会実装等、改造・転換は簡単なことではない。

 

 このような状況の中で、昨年秋に公益財団法人廃棄物・3R研究財団は、ノルウエー、ドイツ、スペインのソーティング施設の視察を実施した。藤波も視察団に参加したのであるが、メーカーミーティングで、欧州の標準は、資源物一括回収(生ごみは単独回収の方針)、AI付きデジタル化、高度ソーティング化、大規模施設化等が一般的で、欧州域内の資源ビジネスは、脱炭素と新たな市場や産業を創出し雇用拡大にもつなげることを狙って、サーキュラーエコノミー(循環経済)への流れが加速化しているとのことであった。日本とのレベル差は歴然である。

 

 いずれにしても、「脱炭素、循環経済」は、化石資源の使用抑制、プラスチックの削減、プラ素材の転換、再生資源利用の拡大等を世界の共通政策の新主軸としている。まもなく社会変革の大きな波が押し寄せてくると思っている。

       

藤波 博

【プロフィール】

藤波 博

株式会社トベ商事 社長室企画調査部長

(経歴)
・川口市環境部職員等として長らく環境行政(廃棄物・3R、地球温暖化等)に従事。
・2009/04から公益財団法人 廃棄物・3R研究財団 調査部長、3R活動推進フォーラム専任理事兼務事務局長兼務を経て、参与。
・2023/04から株式会社トベ商事 社長室企画調査部長

(主な業務歴)
・JICA専門員としてタイ王国派遣、海外諸国の廃棄物調査
・月刊廃棄物に2009年4月から廃棄物行政、ごみ処理施策・実務知識、時事に関する解説を通算172回連載(2023年7月で終了)
・環境大臣委嘱「環境省3R推進マイスター」
・環境省「使用済小型電子機器等再資源化の促進に関するガイドライン等検討会」委員、地方自治体審議会委員
・地方自治体、関係団体等研修・講習会、シンポジム講師等多数

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