「発電してみませんか?」 鈴木 靖文
自転車をこぐとテレビなどの家電製品が動作する「自転車発電」を体験した方はいるでしょうか。ふだん何気なく使っている家電製品を動かすために、どれだけ大変な力が必要なのかを実体験できます。各地の環境イベントなどで使われています。 例えば扇風機は比較的簡単に動かすことができる機器ですが、それでも1分間ほど発電するだけでも大変なことで、息はあがり、体中から汗が噴き出してきます。扇風機の風で涼む以上に暑くなってしまい、いったい何のために発電しているのか目的を見失ってしまいます。しかし、自分の力で家電製品を打ち負かしたという達成感と充実感に酔いしれ、そんな本末転倒な結果なんかどうでもいいように思えてきます。
サッカーのワールドカップを応援するのにも、自転車発電は大活躍です。大都市の街中の交差点とはいえ夜が更けてほとんどの店が閉まり、試合を自宅で観戦するために家路を急ぐ人たちはみな無言です。そんな街角に、ママチャリにテレビと自転車発電装置を積んで、約束をした数人が集まってきました。装置を組み立て、アンテナを立て、自転車をこぎはじめると、テレビに砂嵐の画面が写りました。砂嵐の雑音はビルの間に吸い込まれていきますが、チャンネルを合わせてサッカーの映像が動き出すと、突然、興奮した実況アナウンスが大音量で街に響き渡り、道行く人も足を止めて画面を眺めていきます。しかし長くは続かないもので、3分もすると自転車の漕ぎ手は疲れ果て、画面がとぎれとぎれになったかと思うと、プツンと切れてしまいます。急いで次のこぎ手に交代し、再び試合の画面が写ると、取り囲んだ観客から自然と拍手が沸き起こりました。やがて歩道を埋め尽くすほど観客が集まり、テレビ映像を見ては「日本チャチャチャ」と応援し、テレビ映像が消えたら発電してくれた人に惜しみない拍手と「ありがとう」の声が贈られ、さらには興奮して「次は俺がこぐ!」と言い出す観客が出てきて、いつしかお祭り騒ぎになってしまいました。騒ぎすぎて警察の方も来られました。すみません。
追伸:遅ればせながらアラフィフにしてロードバイクにめざめました。自動車や鉄道でないと行けないと思い込んでいた場所に、自分の足で行けるのは喜びです。通勤も、ちょっと遠回りしてお花見・観光地めぐりができ、なかなか乙なものです。 |
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