Vol.144「あなたの心に最も響く“E”は何ですか?」 吉葉 正行

 大学教員当時,教養課程やライフサイクルデザイン論など機械工学分野の専門課程での講義をはじめ,学協会や企業・公益団体・区民大学等からの環境-エネルギー関連話題に関する依頼講演等において,最後に起用するパワーポイントでは常に,図に示したような“E”で始まる英単語(名詞に限定)のKeywordsを画面上に並べ,重要項目を簡単に説明して総括に代えた.その後,中央部にある“End”の文字を浮かび上がらせて,「もう“E”加減にしろという指示が出たので,これで終了(End)です」とダジャレを交えて締めくくった.特に,興が乗って時間的余裕がある場合などには,この画面のみで30分間話を続けたこともあった.その中には例えば,「『エゴ』(Ego)という言葉は何と読むのでしょうか?」などと「言葉のお遊びクイズ」を出題して聴講者に参加する機会をつくったこともある.基本的には,「てん (〝) でエコ(Ecology)にならない」を模範解答として用意していたが,他に当意即妙な「名解答」が聴講者側から出てくるかも知れないと期待しての出題であった.しかし残念ながら、現在まで筆者をうならせるような秀逸な解答には出会っていない.



 このような総括方式によるプレゼンテーションは既に1990年代初頭から続けてきている.1990年代当時は特に,バブル崩壊により経済低迷が続く一方で,異常なほどの環境意識の高まりから環境-エネルギー課題の両側面を睨んで,それまで迷惑施設(Not in My Backyard; NIMBY)の代表格として周辺住民から嫌われてきた廃棄物処理施設における高度エネルギー拠点化を目指した産官学による目玉事業として廃棄物発電の高効率化に向けたプロジェクト研究が廃棄物研究財団(現在の廃棄物・3R研究財団)やNEDO,さらには東京都清掃局(当時)などにおいて精力的に推進された.筆者はこれらほとんどすべてのプロジェクト研究において機械工学・環境材料学分野の専門委員として関与していたので,その技術論とバランスシート面での優位性を中心に社会へ向けた啓発活動を展開した.その一環として,教養~専門課程の学生をはじめ専門技術者や地域住民向けの話題提供を中心に,“Environment”(環境保全)-“Energy”(新エネルギー開発・省エネルギー)-“Economy”(経済発展)の“3E”で構成されるトリレンマ問題(Global Trilemma Problem)の解決に向けた国や自治体,企業等での取組み,さらには主婦層などを中心とした住民の意識改革の重要性について「辻説法」を続けてきた.そして,これら“3E”に加えて,これらを支える必須の技術基盤としての“Engineering”(工学)と“Education”(教育・研修)によって構成される“5E”の重要性を一貫して説いてきた.その後,企業・団体等の経営者らを対象とした講演を頼まれることも次第に増えてきたため,例えば“Enterprise”など経営論的側面を意味する“E”も追加して,現在では第3世代の画面に進化?している.
 さて,“E”で始まる用語にはそれぞれポジティブとネガティブ双方の意味合いを有するものが多く,まさに「昨日『正論』であったものが,明日は『正論ではない』かも知れない」という昨今の「環境問題」特有の時空的解釈の難しさを如実に反映している言葉が多い.当然,諸分野における将来的重要課題であるSDGs戦略の普及と実効性を高めるうえで必須のKeywordsも多数含まれている.さらに,個人レベルでの健康で持続性のあるライフスタイル“LOHAS”の要素として重要なKeywordsも多く,これらは世界中が現在深刻な状況下に置かれているCOVID-19禍の中で人類が求められている「新たな生活様式」とも共通するものである.
 また“E”は,“Epitaxy”や“Entropy”,あるいは環境プラント部材等で実用上深刻な表面損傷劣化問題の誘因となる“Erosion”現象などのように,「ものづくり・材料技術」や「環境・エネルギー技術」などのハードウエア面の基盤を支える物理・化学的専門用語のみならず,組織論や社会システム論,さらには精神論に関わるようなソフトウエア面の用語も相当数ある.例えば“Euphony”とは,「快い音調」という快適性や調和性のニュアンスを含んだ言葉であるが,これは筆者の高校時代の吹奏楽部における担当楽器にして,最近「京アニ」こと京都アニメーション作品の「響け!ユーフォニアム」のヒットによってようやく市民権を得た吹奏楽における中音域で対旋律を受け持ち,曲全体のハーモニーと重厚性を担保する「縁の下の力持ち」的役割を果たす金管楽器の“Euphonium”に通じる言葉でもある.また“Ethics”など,倫理観や道義を意味する相当ストイックな用語もある.
 3R・低炭素社会検定に関わる皆さんは,実社会での活躍を今後期待されている“Elite”であるに違いないが,単に机上でのみ優秀な「偏差値エリート」や「利己的・排他的エリート」では決してなく,物事に対し複眼的視野から柔軟で的確な判断を下せるための思考力を身に着け,さらに現場で汗をかくことを厭わないSpecialistを目指していただきたい.特に,公益性を重視して「利他的」精神を涵養していただきたい.
 “E”で始まる関連用語は他にも相当多数あるので,あなたの心に最も深く刺さる“E”を見つけて,専門性を今後さらに磨くための心の糧にされることを期待しております.

吉葉 正行

【プロフィール】
吉葉 正行

 公共投資ジャーナル社 「環境施設」編集委員会委員長・論説主幹
 元 東京都立大学・首都大学東京 教授(機械工学専攻),工学博士
 ミュンヘン工科大学 客員研究教授(1996)
受賞:粉生熱技術振興賞、環境大臣表彰など全10件
主要著書(論文等を除く):
(1)「ミュンヘン通信 -材料研究・リサイクル・そして教育文化芸術-」(学術雑誌「材料と環境」連載Essay,1996-1997)
(2)「バイオマス・廃棄物発電によるエネルギー利用の最前線と課題 -地産地消と地域活性-」(監修・執筆,S&T出版,2013)
(3)「多事雑言」(「環境施設」連載Column,2014-現在)
楽器遍歴:Euphonium, Horn, Timpani & Percussion, Conductor and Flute

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