「地域と環境学習(地域連携の実践について)連携へのプロセス」
鈴木 榮一
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「地域の良さって、なんだろう」
「環境学習(施設)が地域に果たす役割って、なんだろう」
筆者の施設運営実践における重要なテーマです。
本紙99号で述べたとおり、筆者は博物館業界の出身で、多くの博物館や科学館などの設計に携わり施設の運営業務にもあたってきました。
その実践経験から、専門的なコレクションや研究を売りにしない一般のミュージアムにとっては、地域連携が欠かせないことを身に染みて感じています。
今年度は、筆者が勤める施設の運営をはじめて10年目にあたりますが、環境学習施設もミュージアムと同様に地域連携が大切だと実感しています。
すでに環境学習施設で実践を重ねられている方には、当たり前の話かもしれませんが、この共通項は施設運営における重要な意味を持つと考え、地域と環境学習について連携の実践を通して述べてみます。
地域連携と言えば、施設周辺の環境系市民団体や企業・公的施設及び教育・研究機関との連携事業が主な主役ですが、真に大切な実践は、地域の環境と背景(歴史、文化、伝統、自然等)やその課題を把握し、地域の人々の思いをどれだけ受け止められるか、またそれに応えられる連携事業を当該施設が拠点となって展開できるかどうかだと思います。
いくら地球環境の問題を理解しても身近な生活が改善されなければ意味が無いのと等しく、そこに住む人々の思いを抜きに地域から環境への良いアクションが起こるはずがないと考えます。
次に、筆者が実践してきた地域連携におけるプロセスについて示します。
第1に、地域の人々の「価値」と「認識」の更新
◎地域に対する思いを確認
→人々の地域への思い(歴史等含む)を受け止める
◎地域資源に対する「当たり前」と「お宝」の認識ギャップ
→人々の地域への価値評価と他者評価のずれを認識
・その地で生まれ育った人々には、「当たり前」の地域資源
・他所から見たら「お宝」が多い地域資源
第2に、地域の人びとが集い活動する「機会」と「場」の創造
◎他所の人々も交わり、地域の人びとが交流する機会
→地域を再認識する機会が、ひろく地球を守る最初の一歩
・地域の人びととの接点、交流の機会を創出
・お年寄りの話(昔の地域環境や暮らし)を収集
・地域の良さを発掘する各種活動(地域マップ、古写真収集他)
◎地域の人びとが元気に活躍できる場の構築
→地域の立地を活かした場づくり、地域再発見の第一歩
・地域の人々を対象にした講演会やワークショップ
・地域のフィールドワーク、ガイド制作プロジェクト
・地域の人々の能力も再発掘(人材登録など)
図1: 地域の里山に群生するエドヒガン(兵庫県川西市黒川地区)
※地域のみなさんと地域の宝を再確認し、天然記念物登録へ
図2: 里山保全技術者養成講座(施設の里山)
※地域の人々の交流と里山保全スキルアップ
第3に、地域から世界へ「情報発信」と「交流」の継続
◎地域から発信する「Think Glocally, Act Glocally」の実践
→催事・展示・演芸などを通した地域の新しい価値を創造
・外部からの客観的視点(評価/理解)
・地域の人々の意識変化(時間はかかる)
→地域の恒常的な活性化
・人々の自信と価値観のアップ
・第1へもどって、スパイラル上昇
図3: 地域まるごと里山まつり(ゆめほたる会場)
同日に地域全体で開催: 地域外のお客様が大勢来場!
おしまいに、下図は「地域の人々が主役のミュージアム」を目指して、筆者が開設と運営に携わった博物館計画の理念図です。
地域(市民)の人々の思いや良さを受け止め、これを育む場所として施設が機能し、そしてそこから情報発信してさらに地域が良くなっていくという上昇スパイラルが、博物館のみならず環境学習施設の運営にも役立っていることをご理解いただければ幸いです。
図4: 市民参画のミュージアム活動イメージ
出典:『岡山市デジタルミュージアム(仮称)基本計画』2002
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