「3Rに隠された野望 ~いつか夢をかなえる日まで~」
築地 淳
◎ パプアニューギニア(PNG)の首都ポートモレスビーの人口は約40万人、鉱山、石油、液化ガス等の天然資源に恵まれていることもあり、大洋州地域における他の島嶼国と比較すると一見、道路、電気、水道など基本インフラが整っており、ビジネス街、レストランやホテルなど先進国並みの雰囲気を感じとることができます。
ところが、この街には、無断居住者がコミュニティーを形成している「セトルメント(Settlement)」と呼ばれる場所が、市内に80か所以上点在し、人口の約半分を占めるとも言われており、その生活は貧しく、犯罪の温床にもなっています。
PNGでは有名な「ラスカル」という強盗団がいます。(特定の強盗団ではなく、一般的な若者の強盗団を指します。)
数名の若者が徒党を組み、道路を封鎖し車や金品を奪い、時には傷害や殺人を犯すこともあります。(日本ではきっと「ラスカル」といえば、アニメを思い出しますので、違和感があるかも知れませんね。)
若い人たちが首都に出てきても仕事がない、お金がない、という状況が「ラスカル」を生んだのかもしれません。
PNGは天然資源に恵まれているものの、それが社会全体に還元される構図にはなっていないようです。
ポートモレスビーのほとんどのごみは、「バルニ埋立最終処分場(バルニ処分場)」へ運ばれます。
この処分場の周りにも、やはりいくつかのSettlementが存在し、多くの人たちがWaste Pickingに従事しています。
図1: バルニ埋立最終処分場
私が最初にここを訪れたのは、2012年の12月でした。
その時の忘れられないシーンは、2歳程度と思われる赤ちゃんが丸裸で煙だらけの処分場の中をガラスの破片や鉄くずなどが散らばる処分場内をよちよち歩きで平然と動きまわっているという現状でした。
また、ここでは多くの女性や子供たちがアルミニウム缶等の有価物を回収し、生計を立てています。
中には養豚のための生ごみ回収、期限切れの食品等を回収している人たちもいます。
裸の赤ちゃんのお母さんは、きっと処分場のどこかでWaste Pickingの仕事をしていたのだと思います。
その後何度かバルニ処分場を訪問しましたが、2013年には、忘れられない出来事が起こります。
私と同僚、カウンターパートが、バルニ処分場付近で拳銃を持ったラスカル(5名)に出くわし、車ごとすべての物品を持ち去られてしまいました。
このラスカルのメンバーの一人はおそらく10代前半ではないかと思われるくらいの子供でした。
そして2015年には悲しい出来事が起こってしまいます。
バルニ処分場内で遊んでいたふたりの子供がごみに埋まって亡くなるという事故がありました。
ある廃棄物管理の専門家が「処分場はその国の縮図である」と言っていたのを思い出します。
まさにここバルニ処分場がPNGの縮図であるならば、改善のための縮図にしてはどうか、それを通じてPNGの新しい希望を見出してみてはどうか、と思うようになりました。
その一つの戦術が3Rです。
2014年、ポートモレスビー首都区庁では、学校の生徒を対象に3Rを推進するためのロゴを募りました(選ばれたのが下のロゴになります)。
図2: 3R推進のためのロゴマーク
その時に使われスローガンが、「3R HEART INITIATIVE」です。
3Rの後の「HEART」は何だと思いますか?
これは、Health, Environment, Attitude, Resource Efficiency, Thoughtsの各頭文字をとったものです。
つまり3R活動を通じて健康、環境、行動(変容)、資源効率、考え方を改善しようというものです。
今、バルニ処分場では、2016年に策定された「ポートモレスビー廃棄物管理計画」に従い、処分場における資源回収施設及びコンポスト施設の建設が検討されています。
また、Settlementへのごみ収集の拡大、分別収集のパイロットプロジェクト計画を展開中です。
バルニ処分場における3R HEART INITIATIVEの展開は、まさにこれら施設や活動を通じて、Waste Pickingをする人たちが安心・安全な環境のもと3R活動ができる、また子供のWaste Pickingを回避できる、という効果をもたらすことが期待されています。
つまり3R HEART INITIATIVEの野望は、ごみ減量化等の活動を通じて、子供たちの健康を守り、教育の機会を確保し、女性の労働環境を改善し、そこに住む人の考え方や行動変容を促し、子供たちが「ラスカル」ではなく、夢に向かって勉強・生活できる環境を作ろうとするものではないかと思っています。
「3R HEART」にはそういう想いがたくさん詰まっています。
図3: 廃棄物処分場にいる子供
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