~丹後の農山漁村から学ぶもの~ 三橋 俊雄◎◎ ◎ 1.「遊び仕事」という自然との付き合い方 ◎京都に来てから15年あまり、「野に出て生活を学ぶ」という目線から、学生た ちと丹後半島の農山漁村を訪れ、その地で自然と共に暮らしてこられた方々か ら、自然との付き合い方や生活の知恵、ものづくりの知恵などについて教えて いただいています。 ◎そうした活動のなかで、「遊び仕事」と出逢いました。遊び仕事とは、私たち も自然の一部であるという観点から、私たちが自然や環境のあり方を問う前に、 まず、自然と人間の関係のあり方を問い直す、そういう環境倫理学という学問 のなかから生まれたものです。 ◎例えば、海でのタコやイカ釣り、山でのウサギ狩りや山菜採り、川でのウナギ やサケ捕りなど、大人たちがわくわくと胸おどらせながら自然のなかに身を置 き、獲物との出逢いを求め、同じ土俵で相手と向き合い、そして捕まえ、食べ てしまう、そういう人間の行為です。 ◎タコ釣り。「食べたいな」と思ったらマダコを釣りに行きます。船を出さずに 気軽にとれるので毎日行く人もいるようです。雨上がりには、なぜかマダコは 止まるたびに体の色が真っ白になり、すぐ見つけることができます。この絶好 の機会をのがさないように、雨が止むと、タコを探しに急いで堤防に駆けつけ ます。 ◎ウサギ捕り。けもの道に太めの針金で輪をつくり、雪の上10センチくらいの、 ちょうどウサギがはねる高さにしかけます。毎日捕れているか見に行くとのこ と。ひと冬で10羽ほどの収穫があり、調理して食べます。 ◎手長エビ漁。6月から12月まで由良川で手長エビ漁をします。モンドリ(捕獲 カゴ)にサナギを入れて、由良川べりに10カ所ほど沈めておき、2日に1回仕掛 けを引き上げると、ひとつのモンドリに7~8尾、計80尾ほどの手長エビが捕れ ます。この漁を教えていただいた方は、現在でも、この漁をはじめ、さまざまな 自給自足的な生活を実践している方です。 ◎人間の生活が自然からますます遠退き、それゆえに自然が荒廃しつつある 現代において、このように、農山漁村の伝統的な生活文化として息づいている 遊び仕事は、貴重な自然共生的な行為であると同時に、今では絶滅危惧的民 俗文化であると言ってもいいでしょう。また、遊び仕事は、それを可能ならしめ てきた豊かな自然があることの証しでもあり、その自然を保全することなしに、 遊び仕事は成り立ちません。遊び仕事は、現代の私たちに、自然と対等な立場 で相手(タコやウサギや山菜など)と向き合い、捕まえて、食べるという、ほんと うに自然と「つながる」ことができる自然共生体験の場として、重要な役割を担 っていると思います。 2.「サブシステンス(自立自存)」な生活 ◎私はもう一つ、丹後の農山漁村の生活が、イヴァン・イリイチの言う「サブシ ステンス」な生活であることに気付きました。 ◎「サブシステンス」とは、人間生活の自立・自存を志向する人びとの文化に 見られる、特に交換を意図しないで、人びとがそれで十分こと足りて心も満た される、自立的・非市場的な活動を意味しています。それは、現代の私たちの 社会に見る「サービス漬け」の生活に対して、自分で歩き、自分で学び、自分 で自分の身体を治す、そうした生き方の大切さを示しています。そこには、市 場の「ニーズ」ではなく、自らの「必要」に対して自らが行動する「我唯足を知 る」生き方でもあります。 ◎丹後の山村でお世話になった桶職人さんのお話です。木枯らしが吹き始め た晩秋、薪の束を高く積み上げた「ニウ」を見上げて、「これでこの厳しい冬を 越せる」と感じたそうです。まさに、桶職人さんにとっては、この「ニウ」が、冬 を越すための使用価値であり、それ以外のなにものでもなかったのかもしれ ません。 ◎また、雪の重みで曲がった根曲がり材を、田んぼ脇の農具小屋の屋根を支 える「方杖(ほうづえ)」として利用したり、木の幹と二つに枝分かれした「三つ 叉」のところを、道具(砥石台・写真)の構造として生かし、今でも使っている 「ブリコラージュ(自然の造形を道具の形状として見立て、活用する)」の知恵 も、この桶職人さんから学ばせていただいた「サブシステンス」な知恵です。 ◎折しも、3.11東日本大震災後の復興に向けた人びとの生き方のなかに、 現代の私たちが忘れかけていた「自分の力で生きる」「サブシステンス」な生 き方の重要性を感じた方は少なくなかったと思います。 ◎持続可能な社会づくりとは、私たちが、「遊び仕事」という自然との付き合い 方を楽しんだり、先人の「サブシステンス」な生き方を学び現代に生かしてみ る、その「行動あるのみ!」なのではないでしょうか。 |
【プロフィール】 三橋 俊雄(みつはし としお) 【略歴】 1949年横浜生まれ。 1973年千葉大学工学部卒業 1991年千葉大学学術博士 【現職】京都府立大学教授 【専門】内発的地域づくり、生活文化研究、ユニバーサルデザイン 【主な仕事】まち景観づくり、西陣織産業の活性化、環境共生教育 |