vol.9 ~オーガニック社会のリデザイン~ 森 孝之


「オーガニック社会のリデザイン」 森 孝之 (アイトワ主宰 ライフコンサルタント)

「この生き方ができるならもう一度生まれ直したい」と、今の私は思っています。もっとも、妻とめぐり合うことが前提です。妻も、この自然循環型の生き方ができるなら「もう一度生まれ直してもよい」と言いますが、相手は私とは限らない、とうそぶきます。
実はこのたびの地震を、私は東京八重州口にあるビルの13階で体験し、その後、わけがあって車で茨城県に向かい、強い余震が続く東海村で一夜を過ごしています。津波の恐ろしさは、翌日の深夜、たどり着いたわが家のテレビで知りました。さまざまな経済的資産が、ことごとくゴミという負債に変わり、大勢の方が命まで落とされた光景でした。私は、「日本はこれを機に生まれ変わらないと、犠牲者が浮かばれない」と感じました。
翌朝、「明日は我が身」とばかりに我流の耐震工事に手を付けながら、必ず「日本人は立ち上がる」と心に言い聞かせました。しかし、「復旧では未来はない」と考えています。なぜなら、これまでの日本人並みの生活を、地球上のすべての人が真似ると地球が2.4個も必要になる、と知っているからです。新生日本が望まれます。
ならば「わが国は、1つの地球で済む生き方に転換する」との国是を定め、世界に向かって掲げてはどうか。復興には、膨大な経費や資源だけでなく、遠大なる時間も必要でしょう。これらを投じて、東日本の復興を、この国是実現の第一歩にするのです。
日本は地震の巣窟です。そう遠くない未来に、関東や東南海なども激震に襲われないとは限りません。それを「日本は好機とする」とばかりに腹をくくり、そのために「苦労を分かち合う国民になろう」と、国会は党派を超えて新生日本の方向をブチ上げてほしい。世界は大地震の活動期に入っているようです。その救済も国是に含めるべきです。
こう考えながら、全軍出動している自衛隊の姿をまぶたに描きました。医薬品などを背負ったパラシュート隊員までが空を覆ったりしている光景です。今や自衛隊は世界の災害救援隊に生まれ変わるべき時です。ならば、わが国の若者は大勢が入隊し、世界になくてはならない国をめざして心血を注ぐことでしょう。日本は世界の災害救援隊を保持する国となり、世界からあてにされる存在、裏返していえば不可侵の対象にしてもらうのです。
これから計画停電が不可欠と言われますが、この必要性を原発の是非が問われた時に持ち上げていたらどうなっていたか。きっと原爆被災国の考え方として世界は注目し、「さすがは日本」「日本人らしい」と眩しい目で見てもらえていたに違いありません。
わが国は国土が狭くて天然資源に恵まれないといわれますが、決してそうではありません。それは一瞬にして負債にかわる経済的資産に偏重した考え方です。日本は元来、美しくて豊富な水を得られる環境的資産と、並外れた人的資産に恵まれていました。このたびの災害では、とりわけ忍耐強い東日本の人たちの姿が、世界に感銘を与えたはずです。
60年前の私は、のどが渇くと小川の水で潤しました。それまでのわが国は、いわば大量のミネラルウオーターを海に流しさっていたような国でした。その水を、今では1リットル10円などと換算できる時代ですし、しかも世界は水戦争を予測しています。美しい水を取り戻せば、日本は国家予算に相当する収益を何ヶ月かであげられる計算です。
なにも1世紀前の生活に立ち戻ろう、と言おうとしているのではありません。「古人の知恵」と「近代科学の成果」をうまく組み合わせ、太陽の恵みをうまく活かせば、わが国は自然豊かな超近代社会にリデザインできる、と言いたいのです。この社会をオーガニック社会と私は見据え、40年ほど前から試行錯誤を繰り返してきました。それは農的事例の1つに過ぎませんが、その気になれば誰にでも手が出せる自然循環型の生き方です。わが国の限界集落や耕作放棄地などを活かせば、このたびの被災者をたちどころに吸収し、その日から生産的活動に勤しんでもらえる生き方です。
もちろん強制はできません。希望する人や家族を、つまり部分を国が全面支援し、残る大部分がその負担を分かち合うシステムを構築すればよい。オーガニック社会は自然循環型社会やフルコスト社会と同義です。これまでの社会は、資源は掘り出し得、水や空気は汚し得の自然ドロボウ社会でした。それをフルコスト社会に転換し、部分を支える資金を捻出するのです。つまり、自己完結や自己責任能力の向上を奨励する税制に抜本改革です。
こうした社会を夢見ながら、私は3R低炭素社会検定試験に挑む人たちへの期待を膨らませました。その意欲を、早晩破綻する工業社会の延命に寄与するのではなく、世界をオーガニック社会にリデザインするために活かしてほしい。この震災を機に日本が率先して動き出せば、日本のみならず世界の若者が希望を抱き、明るい未来を切り開くことでしょう。




森 孝之

■プロフィール: 森 孝之
1938年西宮生まれ。
アイトワ主宰 ライフスタイルコンサルタント 大垣女子短期大学名誉教授。

44 年京都郊外に疎開し、定住。伊藤忠商事に勤め、ポスト工業社会型企業への転換を提唱するが理解を得られず。同型のモデル生活空間造りを、母が一家を支えた3反の土地で着手。1986年春、その空間に「アイトワ」との愛称を与えて公開。著書に『ビブギオールカラー ポスト消費社会の騎手たち』(朝日新聞社)、『次の生き方 エコから始まる仕事と暮らし』(平凡社) 『京都嵐山エコトピアだより 自然循環型生活のすすめ』(小学館)など。この間に、伊藤忠ファションシステム(株)企画開発部長 (株)ワールド社長室長・取締役 大垣女子短大学学長などを経験。商社で職場結婚した妻は、現在創作人形作家。


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