~消費者の声を企業に!~ 織 朱實◎英国オックスフォード大学での1年間の短期在外研究を終えて今年9月に帰国しました。今まで、あまり知ることがなかった欧州と日本の生活習慣の違いについて、「3R×低炭素社会に向けて」の観点からもいろいろ感じさせられた1年でした。容器包装を例にとってみると、環境先進国といわれている欧州各国と比較してもリサイクルのためにソーティングセンターに運び込まれる「物」の綺麗さは、日本が世界一!ドイツ、イギリス、フランス、ベルギー等各国のリサイクルセンター、中間処理場をみましたが、日本ほど綺麗に「物」が分別され、搬入されている「物」自体も綺麗という国はほとんどありませんでした。 欧州の行政関係者からの質問で一番多いのが「どうして、日本の市民はあんなにきめ細やかに分別できるの?」。国民性の違いなのでしょうね。しかし、この生真面目さが3R促進のネックになっているのも事実。リデュースの一環として薄肉化を進めようと思えば、一方で輸送途中の耐久性が犠牲になり、容器にへこみがでることも。こうした容器の「へこみ」「ゆがみ」に我慢できないのが、日本の消費者。もっともこうしたへこみでも、「価格が安いなら購入するのだけれど」こういう声は聞かれます。価格が少しでも安ければいいけれど、同じ価格なら綺麗なもの、あるいはリサイクル材を使用したものでなくバージン素材のもの、こうした意識からどうしても逃れられないようです。英国、ドイツ、イタリア、スペインはもちろんのこと、欧州の消費者は驚くほど製品のみかけを気にせずに、無造作に商品棚から取っていきます(もっとも、驚くことには英国ではレジで支払いする前に商品をあけて食べてしまう姿も。レジでは空になった袋を見せてお支払い。こういうのは日本ではちょっと考えられませんね)。 さて、3Rだけでなく低炭素社会の実現という観点から、忘れてはならないのは、製品の機能。容器には、食品を守り、保存するという大切な機能があります。この機能をきちんと果たさせることが無駄な廃棄をなくし、低炭素社会につながっていきます。過剰包装=「必要な機能以上の性能を備えた容器・包装」ということになるのでしょうが、この「必要な機能」はなになのか?この判断を、消費者が行い、「環境に優しい」選択ができるようになるためには事業者からの情報提供が重要になってくるでしょう。この容器は、どんな素材で、どんな機能を持っているのか、それは本当に必要な機能なのか?こうした「知っている」から、より環境負荷が少ない製品を「購入する」に消費者を後押しするのが、流通現場のポップ等の情報でしょうか。 環境に優しいから、見た目が悪くても、少し価格が高くても、それを「付加価値」として購入する、こういう社会になるためには、関係者間の情報流通ができる場つくり、システムつくりがまず第一歩だと思います。しかし、どんなに情報が関係者間に流れても、「現在の包装は、消費者のニーズに合わせたもの」「より多様な機能を、消費者が望むから」こういう事業者の声に応えないと、市場は変わっていけないのです。「選択肢が多ければ多いほど豊か」であるという社会から、「少ない選択肢の中から必要なものを選ぶのが豊か」な社会になるために、どうやって企業を動かしていけばいいのでしょうか?いろいろな企業を見ていますが、今の日本の企業にとっては、無言の多数の支持よりも、一つのクレーム、一つの声が大きな影響力を持っているのが現状のようです。「ここまで対応しなければならないの?」と思うほど、たった一つのクレームに対応するため多くのロードがかけられている例を多数見てきました。一方で、「良い」とか「頑張っているね」「こういう製品は評価するわ」といった褒める言葉は、あまり企業に届けられていません。たった1通のはがきを、「消費者からこんな意見が寄せられました」と何度も嬉しそうに企業担当者から紹介されることがあります。「知ってさえいれば、見た目はともかく、環境に優しい選択をしたい」という消費者は多いと思いますが、そうした声が企業に届いていないのです。普通の市民の普通に感じる声を、どうやって企業に伝えるのか、市民活動をしていない市民にとっては、とても遠い道のりに思えるかもしれません。 でも、気になる製品の企業の社長あてに「この製品のこういうところは素晴らしかったです」「私は、『へこみ』もきちんと理由がわかれば気になりません」というはがきを1枚、メールを1通届けることが、どれだけ大きな影響力を持つか。企業を動かしていくことは、小学生の子供にお片付けをさせるより実はもっと簡単ではないかと思うことがたびたびあります。日本が3R×低炭素社会にむけて、日本ならではの「強み」を発揮するためには、関係者間で必要な選択をするための情報が流通し、消費者が上手に企業を操作していくこと(賢い奥さんが、旦那さんの操縦方法を心得ているように)が、これからのポイントになっていくのではないでしょうか。2011年、具体的に企業に消費者の声をとどけるためにどんな方法があるのか、いろいろな人たちと具体的に話し合いながら模索していきたいと思います。 |
■プロフィール: 織 朱實 (おり あけみ) 現 職 関東学院大学法学部教授 専門は、環境法、行政法。化学物質、土壌汚染、廃棄物政策をめぐる市民参加、リスクマネジメント、リスクコミュニケーションを研究していますが、最近は環境と食糧問題にも取り組んでいます。忙しい割には趣味が多方面にわたっており、万年時間不足、資金不足に悩まされています。ここ数年は、海外出張が多く、訪問した国の『街角の風景』を写真日記としてサイトに公表していますhttp://akemiori.blog67.fc2.com/。これが思いがけず好評で、自分でも楽しんでいます。 |