vol.3 CO2削減と3R:サステイナビリティへの統合  植田 和弘




CO2削減と3R:サステイナビリティへの統合 植田 和弘


廃棄物と循環型社会に関する研究はここ四半世紀の間に大きく進展し、3Rという政策公準もつくりだされた。拙著『廃棄物とリサイクルの経済学』(有斐閣、1992年)の副題は「大量廃棄社会は変えられるか」としていたが、今や大量廃棄が望ましいとか、大量廃棄はやむを得ないとかいう人は少なくなった。このことはこれまで取り組まれてきた研究や政策の大きな成果といってよいが、新しい問題もでてきた。特に近年リサイクルに偏重した循環型社会の欠陥が指摘され、リサイクルは環境負荷を増加させることもあるのではないか、といった疑問も呈せられている。同じく、循環型社会づくりがCO2の排出量を増加させているのではないか、という危惧を表明する人も出てきている。関連して、プラスチックのリサイクルはいかにあるべきか、についても現場ではややとまどいが見られる。

これらのことは廃棄物研究の一層の発展を求めるとともに、循環型社会という廃棄物研究が指針にしてきた理念をさらに磨き上げる必要を示唆している。特に検討しなければならないことに、循環型社会と低炭素社会(本来は加えて、自然共生社会・・・これら3つの社会ビジョンは日本の環境国家戦略に位置付けられている)との理念的な統合の問題がある。低炭素社会(low carbon society)は比較的最近になって温室効果ガス排出量の削減目標が具体化されるにつれて、明確化されてきた環境面からの社会像の一つである。

循環型社会も一つの社会ビジョンであるが、低炭素社会も追求されなければならないもう一つの社会ビジョンである。この二つの理念の統合を考える際にヒントになるのは、1987年にブルントラント委員会によって提起された持続可能な発展(sustainable development)、持続可能な社会(sustainable society)、サステイナビリティ(sustainability)という理念であろう(これら三つは基本的に同一の理念であるとして議論をすすめる)。

ここではH. デイリー(Daly)によるサステイナビリティ原則に基づいて考えてみよう。デイリーのサステイナビリティ原則は三つある。第一の原則は、人間活動に伴う廃物は、環境容量の範囲内でなければならない、というものである。第二の原則は、人間社会が消費する再生可能資源の量は、再生可能な範囲でなければならない、というものである。第三の原則は、人間社会が消費する再生不能資源の量は、消費したことで減少した再生不能資源のストックに伴う機能が再生可能資源によって補われる範囲内でなければならない、というものである。このサステイナビリティ三原則は、人間社会の技術がどれだけ進歩したとしても超えることのできない自然の法則という意味での、エコロジーの絶対性を原則化したということもできる。自然界と人間社会との間の関係を持続可能にするには、守らなければならない原則である。

このサステイナビリティ三原則の観点からすれば、地球温暖化防止すなわち低炭素社会づくりの位置づけはきわめて明確で、第一原則の遵守問題である。すなわち、現状では温室効果ガスの排出量がそれを吸収・同化する容量を超えて排出されているのであるから、基本的には環境容量の範囲内にとどめようと温室効果ガスの排出削減に取り組んでいるということになる。もちろん、森林吸収源を拡大(?)することで環境容量を増加させることも位置づけることができる。

循環型社会づくりは、サステイナビリティ三原則すべてと関係する。循環型社会づくりは、要約すれば、人間社会における物質の利用と廃棄に関して循環という指針を組み入れることで、物質の(利用しないことも含めて)利用と廃棄のサステイナビリティ度を高めることである。この指針をどう具体化するかが循環型社会づくりの内容と成否を決める。

要するに、循環型社会づくりは、それがどの程度3Rを促進したか、だけの指標で評価することはできない。低炭素社会づくりへの貢献もあわせて問われることになる。それらは統合して最終的にはサステイナビリティへの貢献でその成果が測られることになる。もともと循環型社会とサステイナビリティとは深い関係にあるといえるが、それは、循環型社会は究極的には持続可能な社会の物的基礎を示す理念だからである。





植田和弘

■プロフィール: 植田 和弘 (うえた かずひろ)経済学博士・工学博士
現 職 京都大学大学院経済学研究科教授及び同地球環境学堂教授

略 歴 1975年 京都大学工学部卒業、
大阪大学大学院博士課程修了、京都大学経済研究所助手を経て
1984年 京都大学経済学部助教授
1985/86年 ロンドン大学および未来資源研究所研究員
1994年 京都大学経済学部教授
1997年 京都大学大学院経済学研究科教授(現在に至る)
2002年 京都大学地球環境学堂教授(両任)(現在に至る)
2004年 ダブリン大学客員教授
2005年 CESifo(ミュンヘン大学経済研究センター、ifo研究所)
ゲストスカラー
2008年 放送大学客員教授(現在に至る)
2009年 日本学術振興会学術システムセンター主任研究員(現在に至る)

主 著 P.ダスグプタ(植田和弘他訳)(2008)『経済学』岩波書店
P.ダスグプタ(植田和弘監訳)(2007)『サステイナビリティの経済学』
岩波書店
『都市のアメニティとエコロジー』[編著]岩波書店、2005年
『持続可能な地域社会へのデザイン』[編著]有斐閣、2004年
『環境の経済理論』[共編著]岩波書店、2002年
『環境学序説』[共著]岩波書店、2002年
『循環型社会ハンドブック』[共監修]有斐閣、2001年
『循環型社会の先進空間』[共編]農文協、2000年
『環境と経済を考える』岩波書店、1998年
『環境経済学への招待』丸善ライブラリー、1998年
『環境経済学』岩波書店, 1996年
『廃棄物とリサイクルの経済学』有斐閣、1992年、他多数

学会賞他 環境科学会学術賞(2006年9月)
廃棄物学会著作賞受賞(1997年5月)
公益事業学会奨励賞受賞(1993年5月)
国際公共経済学会賞受賞(1992年11月)

その他 中央環境審議会臨時委員(2000~)
産業構造審議会臨時委員(2005~)


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