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小学生の頃、公団の団地に住んでいた(日本住宅公団、現在の都市再生機構のつくった郊外の集合住宅)。その頃の団地には棟ごとに不燃ごみ置き場と焼却炉がついていた。そのごみ置き場からものを拾ったり、火のついた焼却炉にいろいろなものを投げ入れたりして遊ぶのが大好きだった。そのころの癖がぬけないのか、今でもごみの焼却炉にはウキウキする。
ここまでマニアックではないにしろ、一般的にこども達はごみの焼却工場の見学が好きだ。小学4年生の見学に同行させてもらうと、クレーンから落とされるごみに「キャー」、ピットの臭いに「ギャー」と焼却工場職員のサービスにこども達は大騒ぎである。小学校がこぞって焼却工場の見学に行くのには訳がある。文部省(現在の文部科学省)は、1980年度(昭和55年度)施行の学習指導要領から4年生の社会科で「廃棄物処理施設などが人々の役立っていることを理解させる」としているからである。当時焼却工場に見学に行った小学4年生(9歳か10歳)のこども達は、現在40歳を越えている。今では、焼却工場側も施設建設時から地元小学生の見学を想定して見学通路や会議室などを準備するのが当たり前となっている。
さて、平成22年12月に全国の775基の焼却炉を対象として、見学に関するアンケートを実施した。すると94.3%という高い率でご回答をいただいた。回答実数の集計によると、平成21年度1年間に全国で1,275,823人(約128万人)の見学者がごみ焼却工場を訪れている。そのうち小学生が118万人、全国の小学4年生の約75%が見学に行っている計算となる。(平成18年に調査した大阪府内のごみ焼却工場調査では、4年生の見学率は85%を超えていた)。このままいくと、日本人の大多数が少なくとも1回、小学生のときにごみ焼却工場を見学したことがある状態に近づいていく。あと20年もすれば、現役世代の大多数がごみ焼却工場の見学経験者になる。これは、すごいことである。 もちろん、焼却万歳というのではない。いかに焼却するごみを減らすか、いかに循環型の社会を作っていくかということを、次の世代に伝えていかなくてはならない。ごみを減らしてくれ、即ち自分たちの仕事を減らしてくれというのだから見学案内は重要でかつ難しい仕事である。前記アンケートによると、ごみ焼却工場の見学案内は、約4割の施設で手の空いた職員が行っており、見学に関する専任職員が担当する施設も約3割あった。案内に関する業務は外部委託という施設も約3%あった。所長が説明する施設、職員のスキルアップも兼ねて当番制にしている施設、住民ボランティアが行っている施設、市の環境課の職員が行う施設、運転委託先の職員が行っている施設、併設の環境学習施設が説明を担当する施設、再任用(定年後)の職員が担当する施設などなどいろいろなパターンがあった。 また、小学生の見学を大歓迎と答えた施設が46%、まあまあ歓迎が35%、どちらでもないが11%、少し面倒が7%、おおいに面倒が1%(8施設)あった。正直なご回答に感謝である。規模の小さな施設では、一度に大勢の小学生の対応がむずかしく、通常業務をこなしながらの案内は大変なようである。
どのような説明をすればいいのか、どのような立場の人が説明するのかいいのか、正解はないように思える。現場の担当者が訥々と話すのがいいこともあるだろうし、市民ボランティアが熱心に説明するのがいいこともあるだろう、専門性の高い説明員が良く練ったプログラムで説明するのがいいこともあるだろう。ともかく、バーチャルではなく現場で、大人が困っているごみの現状を一生懸命説明することに意味がある。 昨今、PFIだ指定管理だとごみ焼却施設の運営形態がどんどん変わってきている。それでも現場は一生懸命こども達に(未来の大人達に)ごみの話をし続けている。3R・低炭素社会検定の私たちがお手伝いできるとすれば、これらの現場の担当者をサポートすることであり、使える情報を提供することではないだろうか。ともに学ぶとともに、「こうやって伝えたら反応がよかった」とか、「小学生に受けるネタ」、「理解を促進するゲーム」などを現場と一緒に考え共有する場をつくることだろう。どこの施設も同じにする必要は全くない、それぞれ違うやり方があるだろうが、参考にできることも多いはずだ。 人が育つのには時間がかかる。30年かけてつくってきた日本の仕組みが形骸化しないように、今一度その意義をみつめて温かく育てていく必要がある。よければ一緒に「小学生に受ける見学ネタ研究会」をしませんか?
【プロフィール】
花嶋温子(はなしま あつこ)
大阪産業大学人間環境学部生活環境学科講師20世紀の東京生まれ、福岡育ち、大阪大学へ進学を機になんとなく大阪に居着いてしまいました。「3R検定」を始めるという新聞記事をみて、「大阪会場やります」と手を挙げたおっちょこちょい。第一回第二回の大阪会場は、大阪産業大学でした。しかし徒手空拳ではいかんともしがたく、その後大阪市環境事業協会のご厚意により大阪会場の運営はやっと盤石となりました。環境省3R推進マイスター
3R・気候変動検定