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Vol.26 災害時のトイレについて 岡山 朋子
災害時のトイレについて
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岡山 朋子
ア
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昔読んだ林真理子氏のエッセイに便秘の話があった。1週間ぶりくらいに、やっと大便が出たという話だ。便器のなかに山盛りになっている大便の様子、いざ水を流す段になって最初はなかなか流れないのだが、だんだん流れていく様を名残惜しく見つめている彼女の様子がリアルだった。このエッセイのことを女友達に話したら「分かる。私も3日ぶりくらいに出ると、そのままトイレから携帯電話で写真とって誰かに知らせたいと思うもの!」と言われて結構驚いた。いやはや、そんなもんですか。
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しかし。どんなに溜め込んだとしても、いつか絶対に出さなければならないのが大便。小便も通常は毎日数回、誰だって排泄しなければならない。そう、うんちとおしっこは「決して排出抑制できない人間のごみ」なのだ。そもそも「出すな」というのは絶対無理。もしも排出抑制されようものなら、すぐさま人間の健康と命の問題となってしまう。人間の身体から直接出てくる廃棄(排泄)物については、多分リサイクルはできるが、3Rの優先順位通りに取り組むことはできない。
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東日本大震災の被災地においても、排泄問題はすぐに重大な問題となった。ここで被災された石巻市の70代の女性にうかがった大変印象深い話を紹介する。彼女は津波から逃れて、ある会館に避難した。そこにはもともと水洗トイレが設置されているのだが、当然、電気も水も寸断されているため流れない。一方、その周りの津波被害を受けなかった地域も、自宅トイレは一様に使えなくなっているため、皆その会館のトイレにやってきて用を足したそうだ。当然、会館のトイレはすぐにてんこ盛りとなる。避難している高齢者が毎日黙々と新聞紙に移して裏の山に捨てにいっても、掃除したそばからてんこ盛りになるため、数日後、そのトイレのドアを開かないように目張りして打ち付けて、使用禁止にしたという。結局、近所の人も会館の避難者も、裏山に行って用を足さざるをえず、それができない高齢者や夜間は玄関にバケツを置いて新聞紙に受けて、山に捨てたそうだ。
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しかし、一度雨が降ったらとんでもないことになるのでは、と皆思ったらしい。そこで会館の横に住んでいた大工さんに頼んで、津波で流されてきた魚を洗う小部屋程度の大きさのあるタンクを使ってトイレを会館横の公園に「つくってもらった」そうだ。近所の方には当初、避難者は多少差別されたというが、そのトイレを使わせてあげることで(その他にも支援物資の情報提供や物々交換を経て)コミュニケーションをとるようになったという。
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山で(屋外で)用を足すというのは、とても辛い。自宅のトイレが使えないため、そこも使えないと分かっていながらも会館のトイレを使おうとした近所の人のことを責めることはできない。そこで避難者が自らトイレをつくり、それを共有することで近所との軋轢を解消していったというところがこの事例のすごいところだ。彼女は仮設住宅に移住した現在も、このときに出会った会館の近所の多くの世帯と、密な関係を保っている。
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その会館で避難者が自作のトイレを作っていた頃、石巻市の小学校などの指定避難所には、工事現場などによくあるボックス型やテント型などの仮設トイレが最終的に約400基設置された。しかし、これらは屋外に設置されていること、和式で段差があること、狭く、何よりも臭くて汚いということで、老若男女問わず大変不評だった。さらに仮設トイレを管理できる人が、避難者はもとより学校の先生にも市役所の担当者にもほとんどいなかったということも、仮設トイレの大きな課題のひとつとして残された。正しく設置されなかったことでその後不具合が多く生じたり、手を洗う水が不足するなか消毒液もなく衛生問題が生じたこと、さらにトイレットペーパーも慢性的に不足した。
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このようにさまざまな被災地のトイレの話を聞いて、災害に備えて①避難所になる可能性のある学校のグラウンドの端には汲取トイレを、下水道に接続しているならばマンホールトイレを設置準備しておく、②仮設トイレが届くには災害による道路の状況にもよるが石巻市では4日から1週間以上かかっている。それまでの間は備蓄されているトイレでしのげるよう、非常用トイレ(組立型、便袋付き)やポータブルトイレと便袋、パーティション、さらにトイレットペーパーと消毒液を学校等に備蓄しておく、③自治体のみならず政府機関や民間の仮設トイレも含めて全国にある仮設トイレの備蓄状況を把握し、今後大災害が発生した際には、どこのトイレをどこにどれだけと、速やかに配置するシステムを構築する、④仮設トイレを被災地に送る際には、トイレ単体で送らず必ず一目で分かる取扱説明書とトイレットペーパーおよび消毒液を一緒に送る、⑤平時に仮設トイレや一度袋タイプの非常用トイレを使用して個人でも訓練しておく、のが良いのではと考えている。
【プロフィール】
岡山 朋子(おかやま ともこ)
現職:名古屋大学エコトピア科学研究所特任講師/おかえりやさいプロジェクトリーダー
略歴:
1994年 名古屋大学法学部法律学科卒業
1997年 名古屋大学大学院国際開発研究科修了
1997年 (NPO)中部リサイクル運動市民の会・編集部スタッフ
2004年 名古屋大学大学院環境学研究科満期退学
2005年 名古屋大学エコトピア科学研究所特任講師
2008年 博士(環境学)、おかえりやさいプロジェクト発足
http://okaeri.n-kd.jp/
2012年 豊橋技術科学大学特任研究員
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