『小型家電リサイクルが拓く循環経済と脱炭素の実装』 浦出 陽子 株式会社リーテム 取締役 経営企画部長 循環経済という言葉が、理念ではなく「国家戦略」として語られるようになりました。大量に生産し、消費し、廃棄する線形型の経済から、資源を循環させながら価値を高める経済へ。国はその転換を本格的に進めると表明しています。 しかし足元を見ると、日本の一般廃棄物リサイクル率は19.5%(2023年度)。この15年、ほぼ20%前後で横ばいが続いています。ごみの総排出量は約3,897万トンで減少傾向ですが、リサイクル率自体は大きな改善が見られない状況です。 そうした中、環境省は2025年に「資源循環自治体フォーラム」を創設しました。自治体同士が連携し、情報共有や施設の相互利用を進める取り組みです。そして、その具体策の一つとして掲げられたのが「小型家電」のリサイクル促進でした。 役目を終えた家電製品は、私たちの目には「不要品」に映ります。しかし内部には金、銀、銅が含まれ、筐体には鉄やアルミ、樹脂が使われています。2013年に施行された小型家電リサイクル法により、小型家電は制度的に再資源化の対象となりました。リーテムも、国の認定事業者としてその循環を担っています。 リーテムの水戸工場、東京工場では、回収された小型家電は、まず安全のために二次電池等が取り外されます。その後、機械でまるごと破砕します。粉々になった素材は、磁力や風力など物理的な性質を利用して選別されます。鉄は磁石に引き寄せられ、軽い樹脂は風で分かれていく。単純に見える工程の積み重ねが、鉄スクラップ、アルミスクラップ、金銀銅さいなど8種類の再生原料を生み出します。それらは再び精錬され、新たな製品の素材へと姿を変えます。 金属リサイクルの意義は、単に廃棄物を減らすことではありません。まず、それは「採掘を減らす」という選択でもあります。鉄1トンを新たに製造するには、1.5~1.7トンの鉄鉱石と0.6~0.8トンの石炭が必要です。鉄スクラップを活用すれば、これらの資源採掘を抑制できます。資源制約の強い日本にとって、これは資源安全保障の観点でも重要です。 さらに、脱炭素への効果も明確です。鉄スクラップの利用により、従来製鋼法と比較して1トンあたり1.28トンのCO₂削減が可能とされています。アルミではその差はさらに大きく、電解精錬法と比べ排出量は約3%、1トンあたり約10.5トンの削減効果があると報告されています。もちろん、リサイクル工程にもエネルギーは必要です。しかし、ライフサイクル全体で見れば、社会全体の排出量は確実に減少すると言えます。 小型家電の再資源化は、資源効率の向上であり、気候変動対策でもあるのです。2024年に公表された「第五次循環型社会形成推進計画」は、資源を使い捨てにせず循環させながら経済成長を目指す社会像を明確に示しました。そこにはリサイクルだけでなく、リユースやシェアリングも含まれます。そして、循環経済に向けて、制度が整い、インフラの整備が進められ、企業や自治体が動き始めています。今はまさに「実装」の段階です。小型家電リサイクルは、その実装の現場であり、脱炭素社会への確かな一歩でもあると自負しています。 3R・気候変動検定合格者の皆さまと、それぞれの現場で、循環型の脱炭素社会に向けて着実に進んでいけましたら幸いです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 |
浦出 陽子 |
【プロフィール】
浦出 陽子
1991年 慶応義塾大学経済学部卒業
2000年 米国タフツ大学大学院 都市・環境政策学部修了
2010年 株式会社リーテム入社
高校時代、アフリカの大飢饉に関する報道に心動かされました。自然災害(干ばつ)、内戦、農業政策の失敗で、慢性的な水不足と食料不足になって人々が苦しんでいることを知り、「アフリカを緑化する仕事に就きたい」と思うようになりました。
しかし大学受験の結果、経済学部に進むことになり、大学卒業後、電機メーカー経理部の税務担当に。仕事を通じて「誰もが意識しなくても環境負荷の低い行動を選択・実行するようなルールやシステムが必要。社会を変える仕事がしたい」と考えるようになり、大学院に進学しました。
そこで、廃棄物問題・気候変動に対する企業のマネジメントを研究。30代に、地球環境を守る仕事をライフワークにすることができました。「資源が不足する未来。すでに地球から取り出した資源を効率的に循環利用するには? リサイクルの現場で考えて、同志の人たちと協働しよう!」とリーテムに入社。金属リサイクル事業の海外進出調査や国内リサイクル政策関連調査を担当し、現在は会社の事業戦略の策定や新規技術導入に取り組んでいます。


