Vol.17 ~丹後の農山漁村から学ぶもの~ 三橋 俊雄


丹後の農山漁村から学ぶもの~ 三橋 俊雄◎◎


1.「遊び仕事」という自然との付き合い方

京都に来てから15年あまり、「野に出て生活を学ぶ」という目線から、学生た
ちと丹後半島の農山漁村を訪れ、その地で自然と共に暮らしてこられた方々か
ら、自然との付き合い方や生活の知恵、ものづくりの知恵などについて教えて
いただいています。

そうした活動のなかで、「遊び仕事」と出逢いました。遊び仕事とは、私たち
も自然の一部であるという観点から、私たちが自然や環境のあり方を問う前に、
まず、自然と人間の関係のあり方を問い直す、そういう環境倫理学という学問
のなかから生まれたものです。

例えば、海でのタコやイカ釣り、山でのウサギ狩りや山菜採り、川でのウナギ
やサケ捕りなど、大人たちがわくわくと胸おどらせながら自然のなかに身を置
き、獲物との出逢いを求め、同じ土俵で相手と向き合い、そして捕まえ、食べ
てしまう、そういう人間の行為です。

タコ釣り。「食べたいな」と思ったらマダコを釣りに行きます。船を出さずに
気軽にとれるので毎日行く人もいるようです。雨上がりには、なぜかマダコは
止まるたびに体の色が真っ白になり、すぐ見つけることができます。この絶好
の機会をのがさないように、雨が止むと、タコを探しに急いで堤防に駆けつけ
ます。

ウサギ捕り。けもの道に太めの針金で輪をつくり、雪の上10センチくらいの、
ちょうどウサギがはねる高さにしかけます。毎日捕れているか見に行くとのこ
と。ひと冬で10羽ほどの収穫があり、調理して食べます。

手長エビ漁。6月から12月まで由良川で手長エビ漁をします。モンドリ(捕獲
カゴ)にサナギを入れて、由良川べりに10カ所ほど沈めておき、2日に1回仕掛
けを引き上げると、ひとつのモンドリに7~8尾、計80尾ほどの手長エビが捕れ
ます。この漁を教えていただいた方は、現在でも、この漁をはじめ、さまざまな
自給自足的な生活を実践している方です。

人間の生活が自然からますます遠退き、それゆえに自然が荒廃しつつある
現代において、このように、農山漁村の伝統的な生活文化として息づいている
遊び仕事は、貴重な自然共生的な行為であると同時に、今では絶滅危惧的民
俗文化であると言ってもいいでしょう。また、遊び仕事は、それを可能ならしめ
てきた豊かな自然があることの証しでもあり、その自然を保全することなしに、
遊び仕事は成り立ちません。遊び仕事は、現代の私たちに、自然と対等な立場
で相手(タコやウサギや山菜など)と向き合い、捕まえて、食べるという、ほんと
うに自然と「つながる」ことができる自然共生体験の場として、重要な役割を担
っていると思います。

2.「サブシステンス(自立自存)」な生活

私はもう一つ、丹後の農山漁村の生活が、イヴァン・イリイチの言う「サブシ
ステンス」な生活であることに気付きました。

「サブシステンス」とは、人間生活の自立・自存を志向する人びとの文化に
見られる、特に交換を意図しないで、人びとがそれで十分こと足りて心も満た
される、自立的・非市場的な活動を意味しています。それは、現代の私たちの
社会に見る「サービス漬け」の生活に対して、自分で歩き、自分で学び、自分
で自分の身体を治す、そうした生き方の大切さを示しています。そこには、市
場の「ニーズ」ではなく、自らの「必要」に対して自らが行動する「我唯足を知
る」生き方でもあります。

丹後の山村でお世話になった桶職人さんのお話です。木枯らしが吹き始め
た晩秋、薪の束を高く積み上げた「ニウ」を見上げて、「これでこの厳しい冬を
越せる」と感じたそうです。まさに、桶職人さんにとっては、この「ニウ」が、冬
を越すための使用価値であり、それ以外のなにものでもなかったのかもしれ
ません。

また、雪の重みで曲がった根曲がり材を、田んぼ脇の農具小屋の屋根を支
える「方杖(ほうづえ)」として利用したり、木の幹と二つに枝分かれした「三つ
叉」のところを、道具(砥石台・写真)の構造として生かし、今でも使っている
「ブリコラージュ(自然の造形を道具の形状として見立て、活用する)」の知恵
も、この桶職人さんから学ばせていただいた「サブシステンス」な知恵です。

折しも、3.11東日本大震災後の復興に向けた人びとの生き方のなかに、
現代の私たちが忘れかけていた「自分の力で生きる」「サブシステンス」な生
き方の重要性を感じた方は少なくなかったと思います。

持続可能な社会づくりとは、私たちが、「遊び仕事」という自然との付き合い
方を楽しんだり、先人の「サブシステンス」な生き方を学び現代に生かしてみ
る、その「行動あるのみ!」なのではないでしょうか。

砥石台






三橋 俊雄

【プロフィール】
三橋 俊雄(みつはし としお)

【略歴】
1949年横浜生まれ。
1973年千葉大学工学部卒業
1991年千葉大学学術博士

【現職】京都府立大学教授
【専門】内発的地域づくり、生活文化研究、ユニバーサルデザイン
【主な仕事】まち景観づくり、西陣織産業の活性化、環境共生教育


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