Vol.145「楽園を守りつづけるために」 吉村 龍典


「楽園を守りつづけるために」

吉村 龍典

 

 地球最後の楽園と呼ばれる場所がある。
 大洋州にあるパプアニューギニアという国だ。
 パプアニューギニアの海は世界で最も多様な海洋生態系が存在する「コーラルトライアングル」と呼ばれる珊瑚礁の一角で、ダイビングのメッカである。遠浅の海の海岸近くに潜ると、透明度の高いエメラルドブルーの海中に太陽の光が揺れながらキラキラと差し込んでいる。そこを水草やイソギンチャクが揺れ、その間をクマノミなどの色とりどりの魚が泳いでいく・・その風景はもう頭の中にある典型的な「楽園」そのもの。カレンダーなどの写真などにある風景そのままの世界だ。こんな世界があったのかとしばらく時間を忘れ、恍惚とした感覚になってくる。

 パプアニューギニアの中でも私が青年海外協力隊として派遣されたラバウルという場所は第二次世界大戦時の海軍基地があったところで、今でもゼロ戦が海中に沈んでいたり、当時の大砲や不発弾、防空壕や軍船などもそのまま残っている。山本五十六が過ごした作戦基地や、地下病院、飛行場なども残されている。映画「永遠の0」の世界観そのままで、75年前に派遣されていたら、使命も緊張感も全く違った心境だっただろうなぁと平和というものをしみじみ感じていたのを思い出す。

 しかし、そんな手つかずの大自然が残るパプアニューギニアにも急速に近代化の波が訪れている。海外からは大量の飲料、缶詰などの輸入食品が入ってきて、地域住民は食べたココナッツやマンゴーを野に捨てる感覚で、スナックの袋やペットボトルなどの袋を街や海に捨てている。そんな海洋汚染に加え、沿岸部の乱開発などで珊瑚が絶滅の危機にさらされている。

 このまま環境への配慮がないまま、近代化の波に呑まれていくと、素晴らしい珊瑚礁の海が汚されていくことは避けられない。
 海亀やイルカが住めなくなってきている。地元では運動は起っているものの、海外からの商業化の勢いは止まりそうにない。プラスチックごみも多数捨てられている。
 なにか打つ手はないものと思い、学校や市民会館などを巡回し、ワークショップを行った。地元企業や学生などとビーチクリーンアップ団体を立ち上げ、清掃を行った。ごみの分解を実際に体で感じてもらおうと、コンポストセンターを作ったりもした。

 最初はあまり現地民の反応は良くなかったが、徐々に手応えを感じた。生分解ごみが土になる過程を見て、「魔法の様だ」と驚いてくれた。現地民との交流が深くなり、帰国する頃には「我々の国の為にありがとう」と言って、ファイヤーダンスを踊って、ココナッツ蒸し、豚の丸焼きのおもてなしをしてくれた。現地の人が噛んでいる、ビートルナッツという木の実と珊瑚の石灰を口の中が真っ赤になるまで食べたら「お前はブラザーだ。ここに残って家族を作れ」とまで言ってくれた。

 今、日本に帰って再び、パプアニューギニアをなんとかしたいと思っている。京都市の事例を参考に、日本の3Rの取り組み、知見を現地に持ち込むプロジェクトを考えている。このプロジェクトを通じて、異国から来た私を受け入れてくれた彼らへの恩返しにつながればと思う。

 検定合格の皆様も、海を通して自らの行動が世界につながっているということ、思いを拡散していただければ幸甚である。 

吉村 龍典

【プロフィール】
吉村 龍典

 大学卒業後に入社したエーエム・ピーエム関西㈱、キリンビール・マーケティング㈱で会社のCSR活動に興味を持ち、2018年JICA青年海外協力隊へ。環境教育隊員としてパプアニューギニアに派遣される。学校での環境教育の他、ビーチクリーンアップ団体の立ち上げ、環境パレード、環境ソングの制作、環境系ラジオ出演、コンポストセンターの建設など多面的に活動する。2020年より京都大学大学院地球環境学堂浅利研究室。

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