『昔ながらの道具たち-桶-』
山口 茂子 皆様、こんにちは。 ちょうど1年ほど前、はじめての味噌づくりに挑戦いたしました。味噌は寒仕込みといって、寒い1月から3月くらいまでの間に仕込むというのが一般的だというのを、そのときに知りました。 その理由はいくつかあるようですが、寒い時期に仕込めば、高温の夏と違ってゆっくりと発酵が進むので美味しい味噌ができるとか、寒い冬は雑菌が少なく衛生的だとか、秋に収穫したばかりの大豆を使えるだとか、きちんとした理由があるようです。 今の時代は、冷蔵庫などで温度管理もできるかもしれませんが、そういった道具が何もなかった昔の人の知恵。道具に限らず随所に生きているのですね。 さて、昨年仕込んだ味噌は、夏にはカビも生えたり、それを取り除いたり、いろいろありましたが、何とか完成。まだまだ人に自慢するものではありませんが、それなりに味噌の顔をしています。 しかしながら、今回は、味噌の紹介ではなく、味噌を造るのに使った桶です。 桶といえば、江戸時代のリサイクルの話には必ず登場する庶民の生活になくてはならなかった道具です。構造は極めてシンプル。それだけにゆるめばすぐに職人さんが修理をして締め直してくれたようです。 締め直すのは桶の周囲を囲む竹などでできたわっかのことで、これがしっかりしていないと桶はばらばらになってしまうことから、規律が緩んでしまっている状態を「たがが緩む」と言ったり、規律などを締め直すことを「たがを締める」などと言ったりします。 去年の仕込みには吉野杉の桶を使いましたが、味噌づくりになぜこの昔ながらの桶が良いのかというと、見た目の美しさも素晴らしいのですが、この桶にはプラスチックの容器とは違って、菌が住み着いているのだそうです。 味噌は発酵という過程を経て出来上がっていきます。発酵は菌の力を借りる昔ながらの知恵。ならば良い菌が住み着きやすい桶が最適です。 昔から受け継がれてきた道具たち。それには必ず理由があるのだと思います。理由がなければとっくに廃れてしまうでしょうし、不便なだけ、高価なだけの道具では誰にも愛されません。今の時代の便利な道具を否定する必要もないし、環境に配慮しながら、必要に応じてプラスチックや使い捨ての道具なども上手に利用したら良いと思いますが、そういった暮らしのなかで、何か1点ずつでも、何十年も使える良い道具をそろえていくのも楽しいのではないでしょうか。 長持ちさせるには、毎年味噌を仕込んで使い続けることも大切だそうです。 大事に使えば何十年も活躍してくれます。周囲を囲むのが「たが」です。 今回も拙い文章を最後までお読みいただいて有難うございました。 |