「持続可能な国土形成に向けて」 鈴木 慎也 福岡大学 工学部 社会デザイン工学科 教授 「大橋式林道」(林内高密路網)というのを聞かれたことがありますでしょうか?とある林業の現場見学をさせていただいた際に事業者の方にご紹介いただいたものです。一言で申し上げれば、林業現場において「壊れない道づくり」を進めることです。林材の搬出にも間伐にも林道は必要不可欠であり、その整備が重要なのは間違いありません。そのために地質の安定した場所に設置すること、伐開を最小限に抑えること、路面からの排水に注意すること、丸太組構造物を土で隠すことなどを謳った方式です。 訪れた林業現場でこの大橋式作業道が導入されていたのは、頻発化・激甚化する豪雨災害に対し、より耐力のある林道が必要では?という想いが強かったことによります。平成29年7月九州北部豪雨においても、合計307件もの土砂災害が発生したことが報告されています。地形をくまなく観察し、水みちが形成されやすい箇所には丸太組等で強化し、滞水箇所を極力つくらない勾配設計を進めるなど、様々な工夫が重ねられています。 思えば、日本の集落は、里地里山に代表されるように、常に自然環境と共存してきました。環境省によれば、里地里山とは「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」を指します。林業地帯と里地里山とは必ずしも一致する訳ではありませんが、人の手が加わってこそ適切な状態が維持されている点は共通しています。これらの二次的自然地域が、近年では持続可能な利用形態が失われ、生物多様性に悪影響を生じていることが指摘されています。とはいえ、その影響は生物多様性の損失だけにとどまるものでしょうか?災害対応力という側面にも及ぶのではないでしょうか? 日本の国土の4分の3は山地や丘陵地です。本州の中央部には標高3,000m級の山脈がそびえ、そこからまるで滝のように急勾配の河川が流れています。気候変動対策は待ったなしの段階にあります。日本の地形・国土事情をよく理解し、しかるべき適応策を進めることにより、災害による被害を軽減化し、その廃棄物発生量の最小化につながると確信しております。 参考文献・URL |
鈴木 慎也 |
【プロフィール】
鈴木 慎也(すずきしんや)
東京大学工学部卒業。
東京大学大学院工学系研究科修士課程終了後、福岡大学工学部助手、助教、准教授を経て、現職。博士(工学)。
専門分野は衛生工学、廃棄物工学。
廃棄物の収集特性の解析、分別行動の解析から、災害廃棄物管理、プラスチック資源循環、埋立処分場の管理に至るまで、幅広く研究活動を展開している。