Vol.178「割り箸とプラ箸の比較:どちらがエコなのか? 」 高桑 進

 

 


「割り箸とプラ箸の比較:どちらがエコなのか?」

高桑 進

京都女子大学名誉教授


 様々な環境問題を考えていく上で、生活の中での具体的な選択と行動から考えるのが取り組みやすいだろう。

 たとえば、一時だいぶ話題になったことに「割り箸は大量に消費することで森林破壊となるので、エコではない」という今から考えると実に短絡的な主張が多くの有名人も巻き込んでマスコミで世論となった時期があることを多くの方は覚えておられるでしょう。割り箸製造で使う材木があれば家が何軒も建つとか言われた時期もありましたね。マイ箸運動が盛り上がったことも覚えておられますか?

 このようなスローガンがマスコミで大々的に拡散すると、大抵の人は簡単に騙されてしまうのである。まず最初に、割り箸の製造方法については全く無知なことが明らかである。

 いうまでもなく、国産の割り箸は杉や檜の材から真ん中の部分から建材を取った残りの半月形の部分、端材と呼ばれて燃やすしか使い道がなかった部分から作られるのであり、このような端材をいくら集めても家はできないのである。森林破壊どころか健全な林業活動が行われることで初めて端材が出てくるのである。端材だけを取るためにわざわざ森林を伐採しない。国産の割り箸は端材の年輪に対して直角に割り出するのですべて柾目の割り箸となる。したがって、国産の割り箸を割ると綺麗に二等分されるのである。杉や檜はそれ自身が殺菌作用を持つので防腐剤などは一切使われていない安全安心な食器である。

 ところが、大量に輸入して使われている中国産割り箸はその製造方法が全く違う。木材をいわゆる桂剥きにして板状にしたものから割り箸をくり抜くのである。こうすると板目の割り箸が大量に出来上がる。板目なので、割り箸を割ると真っ直ぐには裂けない場合があり、防腐剤などを使用していることが多い。
このように割り箸の製法について学ぶと、中国産の割り箸生産方式では確かに森林破壊につながるが、柾目の国産割り箸はそうではないことが理解できよう。

 ところが、ではなぜ中国産の割り箸が外食産業では使われているかと言えば、一膳の単価である。中国産なら一膳が一円前後、それに対して国産なら二円前後となる。年間に使用される約160億膳の割り箸の約97%は外国産で、そのうち中国産割り箸が98%を占めている由縁である。

 マイ箸運動が広がらない理由は、食事をする機会がある外出時に必ず箸を持ち歩くことが言うは易く行うはかたしであること。また箸箱や袋に入れて持ち運ぶ箸は帰ったら毎回きちんと洗わないと不衛生であることなどを考えると、現在ではほとんど見かけることがなくなった。いくらエコだからと言ってもみんなが実行できるわけではないのである。

 では現在外食産業でよく使われるプラスックの箸の問題点について考えてみよう。

 お客が使用した使い回しのプラ箸は他の食器と一緒に回収されてから、おそらくまとめて洗剤につけてから水道水で洗浄されて乾燥して使われているのではないかと思われる。食器洗浄機を使用すると軽い箸はうまく洗えないからである。では乾燥したプラ箸を毎回使用している場合殺菌はどうしているのだろうか?毎回紫外線で殺菌しているようには見えない。

 居酒屋に行けばすぐに気がつくが、客単価が安い店では大抵プラ箸が使われている。プラ箸は洗浄して使い回せるが衛生的かどうかは保証されていない。しかし、割り箸なら一度使用すれば廃棄されるので衛生的である。しっかりした飲食店ではちゃんとした割り箸を出すので、その店の格がわかるのである。プラ箸だと麺類などが滑って食べにくいが、杉の割り箸だと割ると真っ直ぐに割れて滑らずに口に運ぶことができる。気分がいいのである。

 ワンウエイの割り箸を使うか、何度も洗い使用するプラ箸を使うかは単純にエコかどうかと言う基準では決められないのである。

 ちなみに、我が家では数年前から毎回洗わなくてはいけない滑りやすい塗り箸やプラ箸は捨てて、全て最高級割り箸である「らんちゅう」を使用している。100膳で千円前後するが、洗えば3~4回は十分使用できるので、年間千円で気分よく吉野杉の割り箸で食事を楽しんでいます。    

 

       高桑 進

 

【プロフィール】

高桑 進

京都女子大学名誉教授。

1948年 富山県高岡市生れ。
最終学歴:名古屋大学大学院理学研究科 博士課程修了 理学博士
1980年~1981年 アメリカ合衆国ミズーリ州立大学生化学部研究員。
1982年~2013年:京都女子大学教育学部教授、定年退職 
2013年~2018年:京都女子大学、同志社女子大学、龍谷大学、大阪大谷大学非常勤講師
趣味:魚釣りと自然観察

著書
1)微生物の世界(1997)H.ゲスト著 高桑進訳 培風館
2)総合的な学習--演習編(2001)共著 建帛社
3)環境保全学の理論と実践Ⅱ(2002)共著 信山社サイテック
4)京都北山 京女の森(2002)高桑進 著 ナカニシヤ出版
5)保育内容  子どもと環境(2006)共著 同文書院
6)里山学のまなざし (2009) 共著 昭和堂 
7)里山学のすすめ (2010) 共著 昭和堂
8)京都の森と文化(2020)共著 ナカニシヤ出版

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