Vol.164「動物園で始める、動物の幸せにつながるSDGs」  田中 正之

 


「動物園で始める、動物の幸せにつながるSDGs」


田中 正之


 


 2023年がおだやかに明けました。新年第1号の寄稿をいただけたことを感謝します。
 私は京都市動物園で働いています。飼育員でも獣医師でもなく、動物園での研究や教育を統括する部門である「生き物・学び・研究センター」のセンター長という役職です。動物園は今や、野生で絶滅の危機に瀕している動物種の保全のための拠点としての役割を担っています。そのためには、飼育している動物について詳しく知らなければなりません。調査や研究を行い、そこで得られた知識を来園者に伝えて、動物についての理解を促すことを目指しています。
 少なくとも私が今の職場で働き始めた10年前までは、動物園は直接動物に関わることに注力していればよかったように思います。しかし今や、動物園は動物のことだけでなく、地球環境を考え、そのために行動することを促すことが求められるようになりました。SDGsやサステナブルという言葉も巷間に定着したように思います。
 しかし、「地球のため」「環境のため」と言われても、具体的に何をすればよいのでしょうか。そこで京都市動物園では、動物のためになることでSDGsにつながることを目指しました。つまり、動物の餌として、積極的に寄付を募り、従来廃棄されていたものを積極的に活用することにしたのです。具体的には、食品加工会社から出る野菜の端材や、規格外となった農産物の中で、動物の餌として利用できるものを使い始めました。始めてみると、さまざまな企業や団体から寄付の申し出をいただきました。餌の多様性が増すことで、動物たちにとってもメリットは大きかったと思います。
 寄付をくださる側に立てば、むしろ捨ててしまう方がコスト面で有利かもしれませんが、わざわざこちらの希望量を持ってくる手間をかけてくれるのは、ゴミとして廃棄する量を減らし、かつ有効利用することが以前よりも高い価値をもつ社会になっているということなのでしょう。この取り組みは、双方にとってメリットのある持続可能なものとして、続けていきたいと思います。
 このコラムで紹介した情報は、京都市動物園のHPで公開しています。こちらのページをご覧ください。
「餌の寄付について」

https://www5.city.kyoto.jp/zoo/visitor/support/food/

 

 

 

田中 正之

【プロフィール】
田中正之
京都市動物園生き物・学び・研究センター長
1993年 京都大学大学院理学研究科修士課程修了。1997年 博士(理学)。
2008年 京都大学野生動物研究センターに准教授として着任。京都市と京都大学との間で締結された「野生動物の研究と教育に関する連携協定」により、京都市動物園での研究や教育活動に取り組む。2013年 京都大学を退職し、京都市に入庁。京都市動物園生き物・学び・研究センター長として着任し、現在に至る。

【著書】
「生まれ変わる動物園-その新しい役割と楽しみ方-」田中正之著 化学同人 2013年。
「いのちをつなぐ動物園-生まれてから死ぬまで、動物の暮らしをサポートする-」京都市動物園生き物・学び・研究センター(編) 小さ子社 2020年。 

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