vol.2 “3Rと低炭素”は持続可能社会の条件か? 内藤 正明


“3Rと低炭素”は持続可能社会の条件か? 内藤 正明


1.持続可能社会の要件
いま世界中が人類持続の危機を意識して、新たな「持続可能社会」への転換を模索している。しかし、どのような要件が必要なのか明確ではない。「低炭素」(または低石油)というのが必須条件だが、加えて「3R」というのも間違いなく必要条件であろう。ただ、それで十分かどうか。

「持続可能社会」に必要な条件を明らかにするには、社会の持続を危うくしている原因を明らかにしなければならない。それは世界、国、地域など対象域によっても異なるからでもある。では先ず、世界(地球)スケールの危機はどうか。大きくは、①気候変動、②石油・資源枯渇、③生態系の崩壊、④経済の危機、といったことだろう。したがって、世界全体としては、少なくともこれら4つの危機を乗り越える要件を満たすのが持続可能社会であるといえるだろう。

ところで、①と②は近代工業社会の「量的」副作用であり、その対応は「脱石油(または低炭素)、省資源」に尽きる。一方、③と④はこれに加えて、「質的」問題でもありこの克服は前者ほど容易ではない。さらに対象地ごとに固有の課題がある。例えば、過疎の村が対象であれば、地域経済の再生が持続のための最優先項目である。

2.“循環と3R”はどのように位置づけられるか
環境省は我が国の持続可能性を“低炭素、循環、生物多様性”の3要素で規定している。 “循環”は目標であると同時に①と②を進めるための政策手段とも取れる。“3R”は、環境省のいう“循環”よりも深く広い。つまり、①から④にわたるすべてに関わる社会の方向性を示唆する広い言葉である。たとえばReduceという一言は、近代工業社会を特徴付ける大量消費システムの転換を意味する。

人類史の中で、モノを循環させる仕組みをつくることが、社会の持続性を保つ必須条件であったことは、文明の崩壊の歴史を見れば明らかである。しかし20世紀には、工系はもちろん農系さえもモノが一過的に、しかも大量に消費され環境に放棄された。今後の持続可能社会では、農系と工系で改めて循環システムを一体的に再構築することだろう(図―1)。「3R・低炭素社会検定」はこのような社会構造の基本を見通した上で、これからの方向を熟考する知識と知恵を要求することになり、これは真の持続可能社会への道に繋がるだろう。
図1

3.持続可能社会づくりで何が問題か

これまでの社会づくりは、東京という現代都市社会の象徴を目指して、国主導の下に各地がこれに追随するという方針でなされてきた。しかし、そもそも石油多消費で成り立つ大量生産・消費の社会経済システムそのものが今日の危機の主因であるから、巨大先端技術依存での解決を目指す東京モデルは、地方にとって能力的にも経済的にももうモデルにはなりえない。そうではなくて、まさに近代の総決算としての、石油文明に代わる新たな環境文明社会こそが地方の目指す方向であろう。 とは言え、これまで東京主導の下で、地域自らが理念や問題認識を十分持たなかった地方が、改めて方向性を見出すことには苦労している。まず石油文明に代わる新たな地域理念を持つことが第一歩であり、次いでその目標に至る工程表の策定が必要となる。

4.なぜ地域からの変革か
さらに、持続可能社会の条件を考える上での大きな前提として、温暖化も石油枯渇も、さらにそれに連動する経済・社会の危機も一層進行し、これを食い止めることはもはや難しいという認識を持つかどうかである。もしそう考えるなら、地方が率先してやる理由は、地球や世界のためというより、自分たちの生き残りのためと考えることができる。その場合、持続可能社会の条件も、「適応(adaptation)」策を中心に、「防止(mitigation)」にも有効なものを選択することになる。その手段としては、例えば“有機農業とその地産地消・旬産旬消、脱クルマによる物流・人流、パッシブな省エネ住宅※やまちづくり、再生可能エネルギー”など石油に依らないことはもちろん、地域の資源と人材で実現可能な対策である。

そのような方向を目指していくつもの自治体や地域コミュニティーがいまや各地で動き始めている。それらの方向性は、都市工業社会の陰で一貫して衰退してきた地域の経済、自然、さらに雇用、福祉、子育てから伝統文化の再生にも繋がるものであるのは当然である。したがって「3R、低炭素」に加えて、このような地域社会の「生活の質」が考慮の対象として不可欠になる。図―2は滋賀の社会が目指すイメージで、地域社会の様々な仕組みが全体として連動しながら大きく転換することを示したものであるが、その場合の社会・経済面を規定する生活質の内容は「心の豊かさ」とでも表現されるものであろう.ただし、この定量的な評価尺度を作るのは難しい。
図2

※利用できる自然エネルギーのパッシブな利用と、室内空調システムの変換で、住宅設備とエネルギー使用量を最小限に抑えることが可能な住宅 図―2 持続可能社会とは社会のすべての側面が変革することである。




内藤先生

■プロフィール:内藤正明
【経歴】1939年大阪府生まれ。
1962年京都大学工学部卒業、1969年京都大学工学博士、1995年京都大学工 学研究科教授、2002年京都大学大学院地球環境学堂長(併任)。
【現職】(NPO)循環共生社会システム研究所・代表理事、佛教大学社会学部教授、滋賀県・琵琶湖環境科学研究センター長(併任)。
【専門】環境システム学。
【主な著書】「持続可能な社会システム」岩波講座。
【主な仕事】自然共生型社会の実現に向けた研究と実践活 動、および市民技術の形成。



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